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ぽちぶろぐ

真田氏、万年筆、灯台など興味あることを徒然に書いてみます。

『趣味の文具箱 Vol.40』インクの評価ー表面張力その①

 趣味の文具箱 vol.40では科学的にインクの機能を評価するため、表面張力と粘度を測定している。ここでは何回かに分けてその結果について解説したい。

今回は表面張力その①。

今回、測定に用いられたのはペンダントドロップ、日本語では懸滴法と言われる測定法です。表面張力の測定はいくつかありますが、代表的な測定法の一つです。表面張力測定は非常に難しく、かつ丁寧な実験が要求されます。伺った範囲では、趣味文の編集者が装置をレンタルしてあれだけの数のインクを測定したとのこと。単純にすごいな、と思います。これだけの数をルーチンワークとはいえ、こなすのはよほどの根気がいったと思います。ただし、こうして書籍として発表される以上、データには精度が必要です。この点について、これだけの数を短時間で測定するのは相当のベテランでも精度よく測定するのは大変難しいことなのです。

 インクの表面張力とは何でしょうか?

表面張力とは空気と溶液(ここではインクのこと)との間の界面張力のことです。気体と液体の間の界面のことで気液界面といいます。

表面張力とは気液界面張力のことです。表面張力とはどのような力でしょうか。たぶん、なんとなくわかっているようないないような、と曖昧な方が多いでしょう。しかし説明しろと言われるとなかなか難しいと思います。簡単に言うと、「表面張力とは表面をできるだけ小さくしようとする力」です。これでなんのことかわかった人

は相当しっかりとした科学的な知識を持っておられる方で、この後の説明は不要でしょう。普通はちんぷん

かんぷん、何を言っているのかわからないと思って当然です。では、まず、なぜこのような『表面を小さくしようとする力』が生じるのか、水の例を用いて説明しましょう。

以下の図のように、水分子を○で示します。水は水分子の集合体です(実際はこんな風にきれいに配列していません)。ここで真ん中の水分子に注目して下さい。

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真ん中の水分子は周りすべてを水分子で取り囲まれています。図には示されていませんが、表面に並んだ水分子以外は他の水分子で囲われています。水分子同士は強く相互作用するため、真ん中の水分子のように囲われている方が安定なのです。

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これに対し、表面の水分子は上側に水分子がなく、当然上側の相互作用がありません。その結果、以下の図のように、水分子は周囲にある他の水分子を自分の上へ引き上げて囲おうとするのです。

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これが表面張力なのです。例えば、重力がない宇宙空間では、水分子は空中で球状になります。これは球体がもっとも表面積が小さいからです。

水はこの力が非常に強く、72.75 mN/m あります。mN/mは1m当たりの力の強さを力の単位ニュートンで表したもので、Nの前のmはミリ、すなわち千分の一であることを示しています。"mN/m"で表面張力の単位と思っていただいて間違いありません。趣味文の中にはインクの表面張力が記述されています。ここで、インクのように、水分子以外の物質が水中に混じっている場合にはどのようになるのでしょうか。

 水分子はお互いに強く相互作用するため、水分子で自分を囲い込もうとするため、強い表面張力を生じますが、不純物が混じると、水分子同士と比べ、この異分子と水分子間の相互作用は弱くなります。そうすると、この異分子は水分子を引き上げようとする表面張力は弱くなってしまいます。

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表面の水分子も同様です。周囲にあるのが水分子であれば、引き上げようとしますが、異分子であればこの力は弱まります。よって表面張力は下がってしまうわけです。一覧表に載っているインクの表面張力は水だけの表面張力 72.75 mM/m よりも小さくなっているはずです。表面張力は温度にも敏感に影響されますので、温度を一定に保つことも重要です。またちょっとした汚染も大きく影響されます。ですので、純粋な水の表面張力を正確に72.75 mN/m と測定することは大変困難なのです。当然、他の物質の表面張力を測定するのも難しく、かなり慎重に丁寧な実験が必要です。前述したように、器具のちょっとした汚れも相当影響してしまいます。また、ペンダントドロップ(液滴)の表面に埃などの異物が付着することもありますので、器具の周囲は無塵空間でなければなりません。専門家でも難しいといったのはこういったシビアな条件で測定しなければならないからです。インクのように、器具に吸着しやすく、一般的な化学実験で用いる溶液と比べて相当濃い状態ですので、器具洗浄は大変だと思います。

 

次回に続く